生活保護とは
生活保護とは生活保護法という法律に基づいた制度です。
当たり前のことですがこれが重要で、世間や役所が何を言ってきたとしても関係なく、 法律で認められた権利は享受でき、逆に法律にない義務は課されません。
このページでは生活保護法に基づいて生活保護について説明します。
生活保護とは
Section titled “生活保護とは”そもそも生活保護が何のために作られたのか、それは第一条に書かれています。
生活保護法第一条
この法律は、日本国憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
憲法第二十五条は生存権についてです。
日本国憲法第二十五条
すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
② 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
憲法レベルで保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を、具体的に実現するための制度が生活保護というわけです。
最低限度の生活
Section titled “最低限度の生活”生活保護はすべての国民に「最低限度の生活」を保障するとのことですが、それは具体的にどのようなものでしょうか?
生活保護法第八条
保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基とし、そのうち、その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。
2 前項の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであつて、且つ、これをこえないものでなければならない。
すこし回りくどいですが、要するに最低限度の生活の基準は厚生労働大臣が決めるということです。
とはいえ完全に自由に決められるわけではなく、大まかな種類や実施方法が法律で定められており、その範囲内で決めることになります。
保護の種類は生活保護法第三章、 各保護の実施方法は生活保護法第五章でそれぞれ定められています。
保護の種類の例:
生活保護法第十一条
保護の種類は、次のとおりとする。
一 生活扶助
二 教育扶助
三 住宅扶助
四 医療扶助
五 介護扶助
六 出産扶助
七 生業扶助
八 葬祭扶助
2 前項各号の扶助は、要保護者の必要に応じ、単給又は併給として行われる。
生活保護法第十二条
生活扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。
一 衣食その他日常生活の需要を満たすために必要なもの
二 移送
…
保護の方法の例:
生活保護法第三十一条
生活扶助は、金銭給付によつて行うものとする。但し、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、現物給付によつて行うことができる。
2 生活扶助のための保護金品は、一月分以内を限度として前渡するものとする。但し、これによりがたいときは、一月分をこえて前渡することができる。
…
生活保護法第三十四条
医療扶助は、現物給付によつて行うものとする。ただし、これによることができないとき、これによることが適当でないとき、その他保護の目的を達するために必要があるときは、金銭給付によつて行うことができる。
前項に規定する現物給付のうち、医療の給付は、医療保護施設を利用させ、又は医療保護施設若しくは第四十九条の規定により指定を受けた医療機関(以下「指定医療機関」という。)にこれを委託して行うものとする。
…
…
これらをもとに実際に厚生労働大臣によって定められた基準は厚労省の告示として見ることができます。
金銭給付と現物給付
Section titled “金銭給付と現物給付”すぐ上で引用したような各扶助の「方法」を見てみると、 以下の表のように「金銭給付」と「現物給付」に大別されることがわかります。
給付方法 | 扶助の種類 |
---|---|
金銭給付 | 生活扶助、教育扶助、住宅扶助、出産扶助、生業扶助、葬祭扶助 |
現物給付 | 医療扶助、介護扶助 |
金銭給付と現物給付の意味はそのままの意味ですが念のため法的な定義を貼っておきます。
生活保護法第六条
4 この法律において「金銭給付」とは、金銭の給与又は貸与によつて、保護を行うことをいう。
5 この法律において「現物給付」とは、物品の給与又は貸与、医療の給付、役務の提供その他金銭給付以外の方法で保護を行うことをいう。
さて「現物給付」といっても、結局のところ国が病院や介護施設に「お金」を払って、医療や介護という現物を提供させています。 つまり現物給付とはいえお金で換算できることになります。
実際、厚労相が定めた最低限度の生活の基準である厚労省の告示の 医療扶助や介護扶助の項目を見てみると、
医療扶助基準(一部)
生活保護法第 52 条の規定による診療方針及び診療報酬に基づきその者の診療に必要な最小限度の額
介護扶助基準(一部)
生活保護法第 54 条の 2 第 5 項において準用する同法第 52 条の規定による介護の方針及び介護の報酬に基づきその者の介護サービスに必要な最小限度の額
というように、「~の額」として金額で表されています。
したがって金銭給付と現物給付に分かれていたとしても、「最低限度の生活」というのは最終的に一つの合計金額として表すことができます。 この最低限度の生活を表す金額を「最低生活費」といいます。
ここまでの情報をまとめると、
生活保護によって、すべての国民には最低生活費という金額が保障されている
ということになります。
世帯単位の原則
Section titled “世帯単位の原則”生活保護では原則として世帯単位で保障されます。
生活保護法第十条
保護は、世帯を単位としてその要否及び程度を定めるものとする。但し、これによりがたいときは、個人を単位として定めることができる。
各世帯員の基準額を足しあわせて、その世帯の最低生活費を算出することになります。
要件(条件)
Section titled “要件(条件)”生活保護を受けるためには一定の要件を満たす必要があります。
生活保護法第二条
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護(以下「保護」という。)を、無差別平等に受けることができる。
その要件は法第四条で以下のとおり定められています。
生活保護法第四条
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
2 民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
3 前二項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。
それぞれについて見ていきます。
急迫した事由
Section titled “急迫した事由”第 3 項ですが最も重要なため先に説明します。
「急迫した事由」があれば要件を満たさなくても生活保護を受けられるということです。
「急迫した事由」についてはいくつかの判例で同じような説明がされています。
生活保護法の定める急迫状態とは,生存が危うくさ れるとか,その他社会通念上放置し難いと認められる程度に情況が切迫している場 合をいうところ,…
「急迫した事由」とは,生存が危うくされるとか, その他社会通念上放置し難いと認められる程度に状況が切迫している場合 をいうものと解すべきである。
「生存が危うく」というと何か重大なことのように聞こえますが、実は簡単に再現できます。
それは「お金を使い切り、食べ物をすべて消費する」だけです。 明日食べるものもないような状態は生存が危うく急迫した事由に該当します。
とはいえこれは「要件は有って無いようなもの」と説明するための極端な場合を考えただけで、 実際はそこまで追い込まなくても、あと数週間でその状況に陥ることが明らかなら、受給できるようになるでしょう。
保護が停止・廃止される可能性
Section titled “保護が停止・廃止される可能性”この方法を用いて生活保護の受給を開始することはできたとしても、 保護の実施機関(役所)はあなたに要件を満たす努力をするように指導・指示することができます。
生活保護法第二十七条
保護の実施機関は、被保護者に対して、生活の維持、向上その他保護の目的達成に必要な指導又は指示をすることができる。
2 前項の指導又は指示は、被保護者の自由を尊重し、必要の最少限度に止めなければならない。
3 第一項の規定は、被保護者の意に反して、指導又は指示を強制し得るものと解釈してはならない。
例えば「能力の活用」の要件を満たしていないなら「就労指導」といって求職活動するように指導されるでしょう。
そして、それらの指導・指示に従わない場合、生活保護が停止・廃止される余地があります。
生活保護法第六十二条(一部)
被保護者は、保護の実施機関が、第三十条第一項ただし書の規定により、被保護者を救護施設、更生施設、日常生活支援住居施設若しくはその他の適当な施設に入所させ、若しくはこれらの施設に入所を委託し、若しくは私人の家庭に養護を委託して保護を行うことを決定したとき、又は第二十七条の規定により、被保護者に対し、必要な指導又は指示をしたときは、これに従わなければならない。…
3 保護の実施機関は、被保護者が前二項の規定による義務に違反したときは、保護の変更、停止又は廃止をすることができる。
とはいえ停止・廃止されたとしても生活保護は何度でも申請できるので、 お金がないという急迫した状態が続く限り停止・廃止は無意味です。
総務省による生活保護に関する実態調査229p において、
また、福祉事務所の中には、指導指示違反のため保護を廃止す るものの、間もなくして再保護の受給に至っているものや指導指 示違反による廃止、再保護を繰り返しているものなど(5事例) がある。 こうした背景には、現行の制度上、保護の要件や真に支援が必 要な者には確実に保護を行うという制度の基本的な考え方の下、 指導指示違反により保護を廃止しても、生活困窮を理由に再度保 護の申請がなされれば、保護を開始せざるを得ないものとなって いることがある。
と公認されています。
「5事例」というのは少ないように見えますが、これは全国でという意味ではなく、
96 事務所において平成 24 年度に実施し た文書指示件数
の中での「5事例」です。
全国に福祉事務所は 1200 ほどあるので、50 事例くらいはありそうです。
また、これらの事例は再申請が通っていることから、役所は「急迫した状況に陥ることをわかっていながら」あるいは 「廃止が無意味だとわかっていながら」廃止したものだと考えられます。 これはあまり誠実とはいえません(受給者もそうではありますが)。
他のまともな役所はこのような場合黙認していると考えると、事例数はもっと多くなるはずです。
ということで、急迫した事由があれば生活保護を受給でき、 その急迫した状況が続く限り需給しつづけられることがわかりました。
では、これから説明する要件は満たさなくてもいいんだとわかったうえで、楽な気持ちで続きをご覧ください。
生活保護を受けるためには資産を活用する必要があります。 つまり宝飾品や証券など「最低限度の生活」に不要な資産があるなら、売って当面の生活費に充てる必要があります。
具体的にどんな資産なら保有できるのかは、厚労省による「通知」で定められています。 例えば「家は 2000 万円以下なら保有できる」 「(資産価値のある)自動車は田舎住みや障害者で、通勤通学通院のためなら保有できる」といったことが書かれています。
- 生活保護法による保護の実施要領について(次官通知)
- 生活保護法による保護の実施要領について(局長通知)
- 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(課長通知)
一般的に「通知」といえば上級行政庁から下級行政庁への指示、助言などと認識されていますが、厳密な定義はありません。
生活保護における通知は少し特別なものです。
生活保護は「第一号法定受託事務」といって、本来国がすべき仕事を地方自治体が担っている制度です (生活保護法第八十四条の五)。
地方自治法第二条(一部)
この法律において「法定受託事務」とは、次に掲げる事務をいう。
一 法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの(以下「第一号法定受託事務」という。)
生活保護のような第一号法定受託事務では、都道府県や市町村は、大臣が定めた基準にもとづいて事務を処理する必要があります。
地方自治法第二百四十五条の九
各大臣は、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理について、都道府県が当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。…
3 各大臣は、特に必要があると認めるときは、その所管する法律又はこれに基づく政令に係る市町村の第一号法定受託事務の処理について、市町村が当該第一号法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる。
生活保護ではその処理基準が「通知」として発出されているため、保護の実施機関たる都道府県知事や市町村長はこれに従って業務を行い、 私たち国民も間接的に「通知」の影響をうけることになります。
厚生労働省事務次官通知の序文
なお、本通知は地方自治法(昭和 22 年法律第 67 号)第 245 条の 9 第 1 項及び第 3 項の規定による処理基準であることを申し添える。
通知の法的効力
Section titled “通知の法的効力”政令や省令など、法律の委任を受けた規則を「法規命令」といいますが、 通知はそうではありません。
そのため、それらの通知に従ってされた不利な決定であっても、裁判によって覆る可能性があります。
とはいえ、通知も専門家の会議やパブリックコメントを通じ、法律違反のないように注意して構成されていて、 仮に違法な通知があったとしても過去の裁判によって淘汰されているため、 基本的には通知に従うことになるでしょう。
具体的な資産の種類
Section titled “具体的な資産の種類”資産の活用の話にもどりましょう。
通知の中で具体的に言及されている資産は以下のとおりです(AI で抽出):
不動産・高額資産
- 家屋(居住用、事業用、貸家)
- 土地(宅地、田畑、山林、原野)
- 自動車(通勤用、障害者用、通院用)
金融資産
- 現金
- 預金・預貯金
- 有価証券(株券、債券、国債証券、投資信託の受益証券、未公開株券)
- 保険(学資保険を含む)
事業関連資産
- 事業用品(設備、機械器具、商品、家畜)
家電・電子機器
- テレビ
- ステレオ
- ルームエアコン
生活用品・その他
- 家具什器
- 衣類寝具
- カメラ
- 楽器
- 貴金属
- 趣味装飾品
厳格なように見えるかもしれませんが、実際のところそこまで身構える必要はありません。
具体的に言及されているもの以外は、
- 処分価値が小さかったり
- その地域の世帯の 70%ほどが保有していれば
保有することができます。
生活保護法による保護の実施要領について(局長通知)
(4) その他の物品ア 処分価値の小さいものは、保有を認めること。
イ ア以外の物品については、当該世帯の人員、構成等から判断して利用の必要があり、かつ、その保有を認めても当該地域の一般世帯との均衡を失することにならないと認められるものは、保有を認めること。
生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(課長通知)
問 6 局長通知第 3 の 4 の(4)のイにいう「当該地域の一般世帯との均衡を失することにならない」ことの判断基準を示されたい。答
(1) 「当該地域」とは、通常の場合、保護の実施機関の所管区域又は市町村の行政区域を単位とすることが適当であるが、実情に応じて、市の町内会、町村の集落等の区域を単位として取り扱って差しつかえない。
(2) 「一般世帯との均衡を失することにならない」場合とは、当該物品の普及率をもって判断するものとし、具体的には、当該地域の全世帯の 70%程度(利用の必要性において同様の状態にある世帯に限ってみた場合には 90%程度)の普及率を基準として認定すること。
また、税金とは違って、多少の申告漏れがあとで判明したとしても、 それを処分すればよいだけで、 お金がない状態(急迫状況)が続く限り生活保護を停止・廃止されることはありませんし、 罰則を受けることもありません。
さらに言えば、自動車、家、証券、預金といった、官公庁や銀行がかかわる資産は役所が調査可能(法第二十九条)ですが、 家電やゲーム機など、家にある少々高価なものは調査のしようがないため、 「受給後に資産が判明する」という状況はほとんど起こりえません。
(家庭訪問は拒否できます。急迫状況が続く限り、それによって保護が停止・廃止されることはありません。)
では具体的に言及されている資産のうち、多くの人に関係するものについて説明します。
登場しなかった資産について知りたい場合は、ご自身で通知をご覧ください。
- 生活保護法による保護の実施要領について(次官通知)
- 生活保護法による保護の実施要領について(局長通知)
- 生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(課長通知)
資産価値のある自動車を保有できる条件は次のいずれかの場合です:
※「通勤、通学、通院等」には、保育園等への送迎も含まれます。
- 障害者が通勤、通学、通院等に使う場合
- 田舎や深夜などで通勤、通学、通院等のために公共交通機関がほぼ使えない場合
- 約 1 年以内に生活保護から抜ける見込みがある場合(保留)
ただしいずれも必要十分なものである必要があります。 高級車などは売却して安い車に買い替えるよう指導される可能性があります。
資産価値のない自動車については、前述の「急迫した事由」を用いることで保有できます。
通知では「自動車」とひとくくりにされ、資産価値の有無にかかわらず上記の条件を満たさなければ保有できないとされています。 しかし生活保護法で求められているのはあくまで「資産を活用すること」であり、 贅沢に見えるものを禁止しているわけではありません。
生活保護法第四条第一項
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
この条文を額面通り受け取る限り、資産価値のない自動車は保有しても問題ないということになります。
つまり通知が法律を逸脱しているのでしょうか?
しかし、これについて言及された判例(峰川訴訟)では、
… 法4条1項及び本件次官通知3にいう「資産」とし ては 第一義的には処分価値のあるものを想定していることは確かである , 。 しかし,他方で,要保護者が処分価値のないものを利用して生活してい る場合であっても,そのものの使用や保有により,定期的に一定の費用の 支出を強いられるような場合には,当該物品の保有を認めることが「補足 性の原理」に反することは明らかであるし,そもそも最低限度の生活の需 要を満たしつつ,かつ,これを超えない範囲で保障しようとする法の趣旨 (法1条,8条)も併せ考慮すると,生活保護の実施に当たっては,その 時点の社会情勢や国民感情にもかんがみて,被保護者に当該物の所有を許 すことが最低限度の生活として容認できるか否かという観点からの検討も 必要であって, …
とされました。 つまり「資産価値のない自動車は保有できない」という通知は適法だということです。
ですがそれでも急迫した事由があれば、実は自動車を保有したまま生活保護を受けることができます。
「急迫した事由」によって資産の要件を満たさないまま生活保護を開始したとしても、 その資産はのちのち売却して、「その売却益」または「これまで受給した保護費」の小さいほうを国に返還する必要があります。
生活保護法第六十三条(費用返還義務)
被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
そのため、通常、急迫した事由をもちいて資産の要件を免除することに経済的なメリットはありません。
しかし、今回のような「贅沢そうに見える」 「ランニングコストがかかる(法第六十条)」 という理由で保有が禁止されている、処分価値のない資産を保有したまま受給したい際には有効です。
確かに「自動車を処分せよ」という指導を受けるでしょう。 しかしそれに従わない場合でも、急迫した事由が続いている限り、保護が停止・廃止されることは前述のとおり実質的にありません。
そのため資産価値のない車は保有したまま生活保護を受けつづけることができます。
居住用、事業用に必要十分なものは保有できます。
例えば居住用の場合、親子 3 人世帯の 10 年分の保護費(約 2000 万円)以下が目安です(局長通知問 15)。
生活保護を受けるためには能力を活用する必要があります。
**生活保護法第四条**第1項
保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。
つまり働けるなら働けということです。
しかし前述のとおり急迫した事由によって、必ずしも満たす必要はありません。
若くて健康で働けるのに、働く意思すら示さなかったとしても、 ただお金がないといった急迫した状況が続く限り生活保護を受けることが出来ます。
扶養やその他の制度を利用できるなら、それらを優先的に利用したうえで生活保護を受ける必要があります。
生活保護法第四条第2項
民法(明治二十九年法律第八十九号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。
もしあなたがお金だけを気にするなら、この規定を気にする必要はありません。 なぜなら扶養やその他の制度を使おうと使うまいと、最終的にあなたが手にする金額は変わらないからです。
(支給額 = 最低生活費 - 扶養やその他の制度で得た額)
多くの人が気になるのは「扶養照会」によって親や職場などにばれないかどうかでしょう。
結論からいうと、扶養照会は止められる可能性がとても高いです。
扶養照会とはその名のとおり、役所が扶養義務者に対して、扶養できるかどうかの連絡をすることです。
生活保護法第二十四条 第8項
保護の実施機関は、知れたる扶養義務者が民法の規定による扶養義務を履行していないと認められる場合において、保護の開始の決定をしようとするときは、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、当該扶養義務者に対して書面をもつて厚生労働省令で定める事項を通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが適当でない場合として厚生労働省令で定める場合は、この限りでない。
「扶養義務者」とは基本的に「直系血族」か「兄弟姉妹」のことです。
民法第八百七十七条
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
2 家庭裁判所は、特別の事情があるときは、前項に規定する場合のほか、三親等内の親族間においても扶養の義務を負わせることができる。
3 前項の規定による審判があった後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その審判を取り消すことができる。
家庭裁判所によって三親等内の親族が扶養義務者になる可能性もありますが、相当の事情がなければ認められません。
小松亀一法律事務所
現行法での「特別事情」とは、「よほどの事情でない限り『特別事情』ありと認めるべきではない」と解されており(大阪家審昭和50.12.12月報28-9-67)、具体的には旧民法下で家督蔵属によって扶養権利者を扶養すべき家的財産を取得した場合、扶養義務者が共同相続人である扶養権利者を扶養するとの案ものく了解の下に扶養権利者に相続放棄をさせて単独相続した場合、扶養義務者が以前扶養権利者によって長期間扶養されていた場合などがあります。
「過去に親族に恩を着せた」覚えがなければ、三親等内の親族が扶養義務者になることはないでしょう。
「通知することが適当でない場合」
Section titled “「通知することが適当でない場合」”「通知することが適当でない場合」に関して、コロナ禍において、厚労省から各自治体へ事務連絡が出されました (扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について)。
これによると、以下の場合は「扶養義務履行が期待できない者」として扶養照会を行いません。
- 当該扶養義務者が被保護者、社会福祉施設入所者、長期入院患者、主た る生計維持者ではない非稼働者(いわゆる専業主婦・主夫等)未成年者、 概ね 70 歳以上の高齢者など
- 要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない (例えば、当該扶養義務者に借金を重ねている、当該扶養義務者と相続 をめぐり対立している等の事情がある、縁が切られているなどの著しい 関係不良の場合等が想定される。なお、当該扶養義務者と一定期間(例え ば 10 年程度)音信不通であるなど交流が断絶していると判断される場合 は、著しい関係不良とみなしてよい。)
- 当該扶養義務者に対し扶養を求めることにより明らかに要保護者の自 立を阻害することになると認められる者(夫の暴力から逃れてきた母子、 虐待等の経緯がある者等)
汎用性があるのは3つ目で「生活保護を受けたことが知られると絶縁される」と主張すれば、 それは生活保護を抜けた後のサポートを失うことを意味し、 「明らかに要保護者の自立を阻害することになる」ため、扶養照会されないでしょう。
さてこのページでは以下のことを学びました。
- 生活保護は最低生活費を保障する制度
- 働く気がなくても生活保護は受けられる
- 扶養照会は止めることができる
次は実際に生活保護を申請する方法を学びましょう。